監修:琉球大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科学講座 教授 猪口 淳一 先生

筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の治療選択1,2)

遠隔転移の有無によって、MIBCの治療は異なります。

遠隔転移のないMIBCでは、膀胱全摘除術と尿路変向術が標準的な治療になります。

  • 遠隔転移のないMIBCの病期は「Ⅱ期~Ⅲ期」、遠隔転移のあるMIBCは「IV期」*に分けられます。
    *遠隔転移のあるMIBCの治療については 「膀胱がんの再発・転移について」をご参照ください。
  • 遠隔転移のないMIBCに対しては、「膀胱全摘除術(膀胱をすべて取り出す手術)」と「尿路変向術(新たに尿を体の外に出す経路をつくる手術)」が標準的な治療です。
  • 高齢であったり、肝臓、呼吸器、心臓などの病気がある場合、患者さん本人が膀胱を残したいと希望される場合などは、膀胱温存療法を選ぶこともあります。
筋層浸潤性膀胱がんの治療選択:II期~III期
筋層浸潤性膀胱癌(II期、III期)の治療フローチャート 膀胱全摘除術、膀胱温存療法の治療選択肢を示す

国立がん研究センターがん情報サービス 膀胱がん 治療 https://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/treatment.html (2025年6月閲覧)

膀胱全摘除術2,3)

膀胱をすべて取り出す手術です。

切除する範囲は性別によって異なります。

  • 男性では、膀胱と前立腺、精のう、尿管の一部、および骨盤内のリンパ節を切除するのが標準的です。尿道の再発リスクが高い場合は、尿道も切除します。
  • 女性では、膀胱と子宮、腟の一部、尿管の一部、尿道、および骨盤内のリンパ節も切除するのが標準的です。
膀胱全摘除術で切除する範囲
膀胱全摘除術について、男性と女性の切除範囲を示すイラスト

尿路変向術とストーマについて2,3)

膀胱全摘除術の後には、新しい尿の通り道をつくる手術を行います。

尿路変向術にはいくつか種類があり、がんの位置や全身の状態、患者さんの生活状況などを考慮して選択します。

尿の出口(尿路ストーマ)を
つくる手術
  • ストーマから断続的に尿が出るので、尿をためるためのストーマ装具(採尿袋:パウチ)を付ける
  • 排尿方法:パウチに尿がたまったら、トイレに流す(2~3時間に1回)
尿の出口(尿路ストーマ)を示す膀胱癌患者さんのイラスト
尿管皮膚ろう造設術
尿管皮膚ろう造設術の種類(一過性、両側性)とストーマ装具のイラスト

左右の尿管を1つのストーマにつなぐ(パウチ1個)

左右それぞれにストーマをつくる(パウチ2個)

手術時間が短く、体への負担が少ない(高齢者や合併症のある人にも行うことができる)

回腸導管造設術
回腸導管造設術とストーマ装具のイラスト

回腸(小腸の最後の部分)を切り離して、左右の尿管とつなぎ、お腹に縫い付けてストーマをつくる(パウチ1個) 確立された手術方法であり、最も広く実施されている

自排尿型新膀胱造設術
自排尿型新膀胱造設術による人工膀胱(新膀胱)と尿路のイラスト

小腸または大腸の一部を切り取って袋の形に縫い合わせ、尿をためるための袋(新膀胱)をつくる
複雑な手術であり、手術時間が長いことから、体への負担が大きい
尿道にがんがある場合や、再発リスクがある場合は、選択できない

新しい膀胱を
つくる手術
  • 術後リハビリテーションで、尿の出し方を習得する(尿意を感じないため、時間を決めて排尿する)
  • 自力で排尿できない場合は、細い管を尿道に入れて排尿する自己導尿が必要になる
尿の出口(尿路ストーマ)を示す膀胱癌患者さんのイラスト
尿管皮膚ろう造設術
尿管皮膚ろう造設術の種類(一過性、両側性)とストーマ装具のイラスト

左右の尿管を1つのストーマにつなぐ(パウチ1個)

左右それぞれにストーマをつくる(パウチ2個)

手術時間が短く、体への負担が少ない(高齢者や合併症のある人にも行うことができる)

回腸導管造設術
回腸導管造設術とストーマ装具のイラスト

回腸(小腸の最後の部分)を切り離して、左右の尿管とつなぎ、お腹に縫い付けてストーマをつくる(パウチ1個) 確立された手術方法であり、最も広く実施されている

自排尿型新膀胱造設術
自排尿型新膀胱造設術による人工膀胱(新膀胱)と尿路のイラスト

小腸または大腸の一部を切り取って袋の形に縫い合わせ、尿をためるための袋(新膀胱)をつくる
複雑な手術であり、手術時間が長いことから、体への負担が大きい
尿道にがんがある場合や、再発リスクがある場合は、選択できない

尿管皮膚ろう造設術
尿管皮膚ろう造設術の種類(一過性、両側性)とストーマ装具のイラスト

左右の尿管を1つのストーマにつなぐ(パウチ1個)

左右それぞれにストーマをつくる(パウチ2個)

手術時間が短く、体への負担が少ない(高齢者や合併症のある人にも行うことができる)

回腸導管造設術
回腸導管造設術とストーマ装具のイラスト

回腸(小腸の最後の部分)を切り離して、左右の尿管とつなぎ、お腹に縫い付けてストーマをつくる(パウチ1個) 確立された手術方法であり、最も広く実施されている

自排尿型新膀胱造設術
自排尿型新膀胱造設術による人工膀胱(新膀胱)と尿路のイラスト

小腸または大腸の一部を切り取って袋の形に縫い合わせ、尿をためるための袋(新膀胱)をつくる
複雑な手術であり、手術時間が長いことから、体への負担が大きい
尿道にがんがある場合や、再発リスクがある場合は、選択できない

  1. 日本泌尿器科学会編. 膀胱癌診療ガイドライン2019年版[増補版]. 医学図書出版, p5, p82, 2023.
  2. 国立がん研究センターがん情報サービス 膀胱がん 治療 https://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/treatment.html (2025年6月閲覧) 
  3. 病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第3版, p277, メディックメディア